症例集

2018.07.04更新

今回はリンパ腫という癌(血液の癌)のお話です。
リンパ腫とは全身のリンパ節・内臓に由来するリンパ組織のリンパ球という白血球の1つが癌化する腫瘍です。

発現する部位によりタイプが分けられます。
●全身のリンパ節(下顎や喉や脇の下)が腫れる、多中心型リンパ腫。
●胃腸のリンパ節が腫れる、消化器型リンパ腫。
●胸の中のリンパ節が腫れる、前縦隔型リンパ腫。
●皮膚にボコボコしこりができてくる、皮膚型リンパ腫。
●それ以外の場所にポツンと現れる。節外型リンパ腫。  

だいたいこのように分類されます。
一般的に高齢ワンちゃんに多いのですが、2〜3歳の若いワンちゃんに現れることもあります。
一番多いタイプは多中心型で、次いで消化器型、前縦隔型、、となります。

また、リンパ腫は細胞のタイプや悪性度でも分類されます。

例えば T細胞性リンパ腫の高グレード や B細胞性リンパ腫の低グレード などなどです。

一般的に高グレードは悪性度が高く、抗癌剤の効きが悪いことがあります。

 

リンパ腫の症状は発生部位によります。

多中心型は主に下顎のしこり(下顎リンパ腫大)や元気食欲の消失・嘔吐・下痢などです。

消化器型は食欲不振や嘔吐・下痢などです。

前縦隔型は呼吸が荒い・呼吸困難・咳などです。

節外型はその場所に応じて、骨に発生すれば跛行(ビッコ)、脊髄に発生すれば下半身麻痺など、、です。

リンパ腫は基本的に細胞診という細胞のみの検査で診断できる事が多いですが、稀に細胞だけでは診断できず麻酔下での組織生検(腫瘤の一部を切りとって検査する)が必要になる事もあります。リンパ腫 細胞診 犬リンパ腫の細胞診標本。

犬 リンパ腫 多中心型 下顎リンパ節多中心型リンパ腫 下顎リンパ節腫大(喉の腫れ)

犬 リンパ腫 鼠径リンパ多中心型リンパ腫で下腹部のソケイリンパ節の腫大

犬 皮膚型リンパ腫皮膚がボコボコになる皮膚型リンパ腫

犬 節外型リンパ腫 口唇 節外型リンパ腫でクチビルの腫れ。

 

 

リンパ腫は血液細胞の癌であるため、基本的には手術ではなく抗癌剤による内科治療がメインとなります。

例外として、珍しいですが臓器限局型のリンパ腫は臓器摘出手術により完治できることもあります。

 

内科治療は様々な方法があります。

一般的には抗癌剤を使用していくのですが、抗癌剤には副作用が発現することがあり、使用するか否かは飼い主様とゆっくり相談して実施していきます。

 

 

リンパ腫の様々な治療法を上げていきます。

 

1、ステロイド療法(極めてマイルドな治療) 広く獣医療で使われているステロイドはある程度リンパ腫を抑える作用があります。安価で、酷い副作用も出ないためリンパ腫治療でよく使われます。しかしながら高グレードリンパ腫に対する効果はあまり長期的ではない。低グレードリンパ腫であればステロイド単独で長期間コントロール出来ることも多くあります。5kgのワンちゃんで1ヶ月5千円以下。

 

2、内服抗癌剤(少しマイルドな治療)(クロラムブシル・サイクロフォスファマイド・メルファランなど)アルキル化剤と言われる抗癌剤達は内服薬があります。内服にすることで自宅で飲ませてもらい飼い主様の通院負担や経済的負担を減らします。副作用はあります。抗癌剤で骨髄がダメージを受けるため白血球の数が減り、熱が出たり、元気が無くなったりします。しかし内服なので定期的な血液検査で異常が現れれば投薬量を減らすことで対応できます。低グレードリンパ腫であれば内服抗癌剤で長期間コントロール出来ることが多くあります。5kgのワンちゃんで1ヶ月1万円以下。

 

3、多剤併用注射抗癌剤(最大限の治療)(Lーアスパラギナーゼ、ビンクリスチン、サイクロフォスファマイド、ドキソルビシンなど)複数の抗癌剤を交互に注射する治療計画です。基本的に最初の2ヶ月は週に1回注射、それ以降は2週間に1回注射していきます(半年間)。当然効果は一番期待できます!半年間しっかり通院して頑張れば長期延命も期待できます、現在本院では抗癌剤を頑張って耐え抜き4年再発無しでで元気にしている症例がいます。効果は一番期待できますが、酷い副作用が出ることもあり、入院が必要になる程の 水下痢 嘔吐 白血球減少による敗血症(熱が出てぐったりする)など。費用もかなり高額で毎回通院ごとに副作用チェックの血液検査や点滴や抗癌剤を含めると一回で1〜2万円かかり、最初の2ヶ月で15万円位かかってしまいます。もし再発してしまったらレスキュー療法といってまた別の抗癌剤投与計画に切り替えていきます(アクチノマイシンDやシトシンアラビノシドやACNUなど)。

 

4、対症療法(リンパ腫の治療はしない)副作用の出る抗癌剤などで延命治療は無理に行わずに、リンパ腫に対しては無治療で。リンパ腫による吐き気があれば吐き止めを使用、下痢があれば下痢止めを使用、食欲が無ければ食欲増進剤を使用。といった形で症状に合わせたケアを実施していく。

 

リンパ腫は血液細胞の癌であり、一般的に根治は困難であることが多く、抗癌剤を使用しても短命に終わってしまうことがあります。しかし半年間の抗癌剤を耐え抜いて4年以上再発無しで元気にしている子もいます。

癌治療に対する飼い主様のお考えも様々です。本院では様々な治療法を提示しそれぞれのメリットデメリットをお話しし、相談して治療法を決めていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者: アプリコット動物病院

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