今回はワンちゃんの会陰ヘルニアという病気です。一般的に男の子で去勢手術(精巣摘出術)を実施していない高齢のワンちゃんに多い病気です。去勢手術をしていないために男性ホルモンの影響でお尻の筋肉が緩んでしまい、うまく便を踏ん張って出せなくなってしまう病気です。緩んだ筋肉の隙間に大腸が入り込んでしまい、皮膚の下に便をためて腫れた大腸が触れます(お尻が腫れて見えます)。単純に便が出にくくなる病気なのですが、筋肉の緩みが酷いと大腸だけでなく膀胱までもがお尻側に飛び出てきて尿も出せなくなってしまい、最終的に死に至るケースもある怖い病気です。ミニチュアダックスやコーギーで多いとされていますが、全ての犬種でなります。
会陰ヘルニアの典型的な写真です。お尻がパンパンに腫れています。
正常な子の大腸バリウムレントゲンです。正常な大腸は一直線です。
会陰ヘルニアの子のレントゲンです。大腸の下の方が曲がって大きく広がって写ってます。便が出せずに貯まってしまいお尻がどんどん腫れてしまいます。
治療方針は年齢や重症度によります。高齢のワンちゃんによく起きるので、あまりにも高齢(15歳とか)で症状が軽度であれば便軟化剤などの各種下剤と食事療法で快適にスムーズに排便できるようにもなります。しかし当然根治ではありませんので終生に渡って治療が必要になります。
それほど高齢ではない(12〜13歳位まで)場合、あるいは重症で膀胱なども出てしまい排尿できずに命に関わる場合では、当然 外科手術 で根治を目指します。
手術はまず去勢手術をしていなければ、絶対に去勢手術をします。前述の通り男性ホルモンが大きく関与しているので精巣を摘出して男性ホルモンの値を下げてやります。
会陰ヘルニアは多くは左右両方の筋肉が緩んでしまうのですが、軽症の場合は酷い方の片側だけ手術してしまえば治るケースがあります。そんなに大変な手術ではありません。お尻を切って緩んだ筋肉の隙間から出てしまっている大腸を元に戻して、緩んだ筋肉の隙間を周囲の靭帯や骨を利用して縫って塞ぐだけです。
軽症な子はそんなに大変な手術ではありません。しかし重症で大腸の捻じれが酷い子や膀胱まで飛び出てしまっている子は大変です、お腹も切り開いてお尻側に飛び出た大腸と膀胱をお腹側に引き戻して、お腹側に縫って固定する手術も必要になります。それからお尻側を切って緩んだ筋肉を縫い閉じます。
便を出すために踏ん張るという行為は、ものすごい力が肛門周囲にかかります。そのためこの手術は半端な縫合方法ではすぐに縫合が破綻して再発してしまいます。そのため昔から人工物のシリコンプレートや人工の生体布を隙間に埋め込む方法など、様々な手術方法が開発されてきました。しかし人工物を埋め込むとそれが炎症の原因となり数年後に膿んで摘出するはめになる例もあります。
実は私、昔、大学の元教授に手術をマンツーマンで指導していただく機会があり、この手術は得意としています。本院では教授に教わった方法を例外なくきっちり守り実施することで全例で術後の経過は良好です。本院では炎症反応が起こりにくい単純な糸のみで人工物を用いずに本来ある靭帯と骨を利用して手術しています。手術後は排便状況を確認するために5〜7日入院していただきます。退院後も1〜2か月の間、便軟化剤や食事療法が必要になります。
会陰ヘルニアでお困りの方、手術を悩んでいる方、お気軽にご相談ください。
入院から手術して退院までの費用総額 小型犬 軽症でお尻からの手術のみの場合 12万前後。重症で開腹手術(結腸前立腺固定)が必要な場合15〜18万円前後。(片側のみの料金です)両側手術が必要な場合は割引あり。